企業価値評価の代表的な【3つのアプローチ法】
マーケット・アプローチ
株式市場やM&A市場における株価や取引価格を基準に事業価値または株主資本価値を算定するアプローチ
インカム・アプローチ
将来または過去のキャッシュフローや損益を基準に事業価値または株主資本価値を算定するアプローチ
コスト・アプローチ
企業の純資産の時価評価額などを基準に株主資本価値を算定するアプローチ
牛乳がとれるウシの価値評価とは【マーケット・アプローチ編】
あるウシから、1日10本、年間 3,650本の牛乳がとれるとします。そして牛乳は、1本 100円で売られ、ウシの飼育費として年間10万円かかります。
このウシを所有すると、年間で100円×3,650本-10万円=265,000円の利益を上げることが出来ることになります。なお、ウシの寿命は永久で、食肉とすることは想定しないものとします。牛乳1本あたりの量は全国共通とします。
以上の条件のもとで、ウシの価値を考えてみましょう。
マーケット・アプローチ
これは、現実にマーケット(売買市場)で取引されている価格を直接または間接に参照して評価するアプローチです。マーケット・アプローチでは①株式市価法、②株価倍率法、③類似取引比準法の3つの手法が用いられます。
市場取引価格が分かる時 → 株式市価法
毎日、ウシを取引している市場があるとします。業者が「せり」をしている所です。ウシを買いたい人、売りたい人が集まって毎日ウシを売ったり買ったりしています。日々の買い注文・売り注文が出会って決定される価格は市場取引価格と考えることが出来ます。
ここに、先ほどのウシをもっていきます。売りに出すと300万円の価格が付いたとします。この市場(マーケット)で値付けられた価格をもってウシを評価するのが株式市価法です。企業評価価値で言うならば、証券取引所に上場された株式の「株価」ですね。
株式市場は様々な要因で株価が変動する為、一定期間の平均を用いて評価することが一般的です。これは市場株価平均法と呼ばれています。
市場取引価格が分からない時 → 株価倍率法
ウシが売買されている市場が近くに無い場合は、どうしたら良いのでしょうか?
例えば、北海道にウシを取引する市場がある場合は、北海道の市場で日々売買されるウシの価格と、ウシから1年間にとれる牛乳の量が分かれば、その情報に基づいて取引価格を推定する事はできます。
仮に、年間3,000本の牛乳がとれるグレードのウシが北海道では1頭 250万円で売買されているとします。牛乳は1本100円で売れ、飼育費用は年間10万円です。
このグレードのウシでは、年間で牛乳1本100円×3,000本-10万円=200,000円の利益を上げることができます。それが、250万円で売買されているということは、年間利益の12.5倍の価格が付いていることになります。
この年間利益の12.5倍というのが「倍率」を用いて評価する手法が株価倍率法です。
この倍率を利用して、年間265,000円の利益を上げるウシは、265,000円×12.5倍=331万2,500円 の価格が付けられると考えられます。
企業価値評価では上場する企業の業績と株価の関係を倍率を使って評価しています。有名な評価方法としてPERがあります。これは株価と一株あたりの当期純利益を倍率で表しています。PERはそれ単体では意味をなさず、類似企業と比べて使うのが本質に沿っています。逆に類似企業ではなく、全く業界が違う企業と比べることや市場全体の平均値と比べることは、誤った判断に繋がるかもしれません
ウシのケースでは、グレードが異なるウシの売買を利用しましたが、同じグレードのウシの売買価格を使用する方が評価精度が上がります。例えば、たまたま同グレードのウシが1週間前に350万円で取引された実績があるとします。このウシは年間3,500本の牛乳がとれ、飼育費用は年間10万円でした。牛乳は1本100円で売れます。
これらの情報から、このウシは牛乳1本100円×3,500本-10万円=250,000円の年間利益があり、350万円で取引されたことから年間利益の14倍だと分かります。この類似事例をもちいて行う評価を類似取引比準法といいます。
牛乳がとれるウシの価値評価とは【インカム・アプローチ編】
あるウシから、1日10本、年間 3,650本の牛乳がとれるとします。そして牛乳は、1本 100円で売られ、ウシの飼育費として年間10万円かかります。
このウシを所有すると、年間で100円×3,650本-10万円=265,000円の利益を上げることが出来ることになります。なお、ウシの寿命は永久で、食肉とすることは想定しないものとします。牛乳1本あたりの量は全国共通とします。
以上の条件のもとで、ウシの価値を考えてみましょう。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチで代表的な手法は、DCF(Discounted Cash Flow)法があります。キャッシュ・フローに着目する方法で財務的には最も理論的な評価手法であると考えられています。
上記のウシは、年間265,000円の利益が得られます。寿命は永久としていますので、毎年265,000円が得られるわけです。しかしながら、企業評価の前提となっているファイナンス理論の世界では、「貨幣の時間価値」という考え方が存在します。現在手元にあるわけではない将来の現金流入(キャッシュフロー)を現在価値に割り引いて評価します。
さらに、企業経営には将来どうなるかわからないという、不確実性が存在します。今回のウシも、将来とれる牛乳の量が減るかもしれません。年間10万円の飼育費用も増える可能性があります。牛乳1本の値段も100円から下がることも考えられます。
こうした将来の利益やキャッシュフローについて「貨幣の時間価値」と「将来の不確実性」を反映させるために、不確実性を考慮した将来のキャッシュフローを現在の価値に割り引いて計算します。このとき、割引率というものを設定します。これらの計算を割引現在価値計算といいます。
割引現在価値計算は、金利の複利計算の逆理論です。割引率10%なら2年後の100万円は現在の82.6万円と等しく 100万円÷(1+10%)2 となります。また年間100万円が永久に得られる権利があり、割引率10%とすると、割引現在価値の総計は等比級数の和の公式によって100万円÷10%=1,000万円となります。
今回は、ウシから将来得られる牛乳の量は減少し、牛乳の値段も将来下がると考えられるため、ウシの損益(キャッシュ・フロー)は
この予測に基づく将来のキャッシュフローは、
このように、1~3年後の将来キャッシュフローの現在価値と、4年後以降の将来キャッシュフローの合計は、約240万円となり、DCF法によるウシの評価額は240万円となります。
つまり、インカム・アプローチからウシの価値を求めると、240万円となります。
牛乳がとれるウシの価値評価とは【コスト・アプローチ編】
あるウシから、1日10本、年間 3,650本の牛乳がとれるとします。そして牛乳は、1本 100円で売られ、ウシの飼育費として年間10万円かかります。
このウシを所有すると、年間で100円×3,650本-10万円=265,000円の利益を上げることが出来ることになります。なお、ウシの寿命は永久で、食肉とすることは想定しないものとします。牛乳1本あたりの量は全国共通とします。
以上の条件のもとで、ウシの価値を考えてみましょう。
コスト・アプローチ
コスト・アプローチでは、貸借対照表の資産と負債の純額である純資産に焦点を当てるため、ネットアセット・アプローチと呼ばれることもあります。大きく2つの手法があります。
簿価純資産法、時価純資産法の2つの手法
ウシの例を用いるとすると、例えば子ウシを購入して1年間育ててきたものと仮定します。子ウシの購入に100万円かかり、1年間の飼育費用に10万円かかったとします。現在までに110万円かかっていることになります。この支出の総額110万円が貸借対照表に計上されているとすれば、それをもってウシの評価額とするのが、簿価純資産法です。
さらに、このウシと同グレードで同様の成長度合いのウシをウシ業者から購入しようとすると、180万円かかるとします。この同種のウシ価格は180万円で評価するのが時価純資産法ないし修正純資産法です。
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