減価償却の考え方は最初の頃はしっくり来ていませんでした。
減価償却って何?お金の流れはどうなっているの?会計上の処理?
色んな角度から説明を聞く内に自分の中に落ちていったと感じています。
減価償却のなんとなくのイメージをより正確なものにしていきましょう。
減価償却
減価償却の意義
減価償却とは、費用配分の原則に基づき、有形固定資産の取得原価をその耐用期間にわたる各事業年度に配分して費用化する手続きをいいます。
減価償却の目的
有形固定資産は、その全体的な用役の費消をもって営業活動に貢献しているため、棚卸資産のように具体的な費消を直接把握することができません。このため、有形固定資産の費用配分は実際の費消に即していないため、一定の仮定に基づく費用配分がなされます。
このことから、減価償却の目的は、費用収益対応の原則及び費用配分の原則に基づいて、適正な期間損益計算を行うことにあります。
減価償却方法
定額法
定額法とは、有形固定資産の耐用年数にわたり、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。
減価償却費=(取得原価ー残存価額※)÷ 耐用年数 |
※残存価額は、ゼロもしくは取得原価の10%といった指示があります。
定率法
定率法とは有形固定資産の期首の未償却残高(簿価)に償却率を乗じて減価償却費を計上する方法です。この方法によると、初期に多額の減価償却費が計上され、以降の期間においてその金額が逓減します。
減価償却費=(取得原価ー減価償却累計額)× 償却率※ |
※償却率とは、法定償却率が指示されるか、定額法償却率(1 ÷ 耐用年数)に200%もしくは250%を乗じて計算します。
級数法
級数法とは、耐用年数に基づく算術級数を用いて減価償却費を計上する方法です。この方法は、定率法の簡便法と位置付けられます。
減価償却費=(取得原価ー残存価額※)× Nーn+1/N(N+1)÷ 2 |
※残存価額は、ゼロもしくは取得原価の10%といった指示があります。Nは固定資産の耐用年数、nは減価償却費を計算する年度であります。
生産高比例法
生産高比例法とは、生産高あるいは利用高に基づいて減価償却費を計上する方法です。
減価償却費=(取得原価ー残存価額※)× 当期実際利用量/見積総利用可能量 |
※残存価額は、ゼロもしくは取得原価の10%といった指示があります。生産高比例法は、次の要件を充すものに適用されます。
- 減価が主として固定資産の利用に比例して発生すること。
- 当該固定資産の総利用可能量を物理的に確定できること。
なお、定額法・定率法・級数法は耐用年数を償却基準としているが、生産高比例法は利用度を償却基準としています。
減価償却の計算例
各減価償却方法に基づいて、初年度の減価償却費を計算すると以下のようになります。なお、下記は、各計算方法を比較するために仮定したものです。
<ケース1> 車両の取得原価:500,000円、残存価額:取得原価の10%、耐用年数:5年 定率法償却率:0.369、当期走行距離:2万km、見積総走行距離:10万km
①定額法:減価償却費= 500,000円ー500,000円 ×10%/5年=90,000円
②定率法:減価償却費= 500,000円 × 0.369= 184.500円
③級数法:減価償却費=(500,000円ー500,000円 ×10%)× 初年度級数5/級数の総和15※ =150,000円
※耐用年数5年の場合の級数
年度 | 1年度 | 2年度 | 3年度 | 4年度 | 5年度 | 級数の総和 |
級数 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 15 |
④生産高比例法:減価償却費=(500,000円ー500,000円 ×10%)× 2万km/10万km=90,000円
<ケース2> 車両の取得原価:500,000円、残存価額:ゼロ(残存簿価)1円 耐用年数:5年、定率法償却率:定額法償却率の200% 当期走行距離:2万km、見積総走行距離:10万km
①定額法:減価償却費=500,000円/5年=100,000円
②定率法:減価償却費=500,000円 × 0.4※ =200,000円
※200%定率法償却率=定額法償却率(1年/5年)× 200% =0.4
③級数法:減価償却費=500,000円 × 初年度級数5/級数の総和15※ ≒166,667円
※耐用年数5年の場合の級数
年度 | 1年度 | 2年度 | 3年度 | 4年度 | 5年度 | 級数の総和 |
級数 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 15 |
④生産高比例法:減価償却費=500,000円 × 2万km/10万km=100,000円
減価償却制度の改正
2007年度の税制改正により、2007年4月1日以降に取得する減価償却資産の償却計算の方法が大きく変更されています。具体的には以下のとおりです。
主な改正点
- 2007年4月1日以降に取得した新規取得資産
償却可能限度(改正前は取得価額の95%)と残存価額(改正前は取得価額の10%)が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるように改正。また、定率法の計算方法が変更。
- 2007年3月31日以前に取得した既存資産
従来どおりの方法により償却可能限度額(取得価額の95%)まで償却した後、残存簿価1円まで5年間で均等償却することができるように改正。
新定額法
残存簿価1円まで償却するため、取得価額に定額法の償却率を乗じて計算した額(または耐用年数で除した額)を各事業年度の減価償却費とし、耐用年数経過時点において残存簿価が1円になるまで償却を行います。
- 定額法償却率を使った計算
定額法償却率=1 ÷ 耐用年数
減価償却費=取得価額 × 定額法償却率
- 定額法償却率を使わない計算
減価償却費=取得価額 ÷ 耐用年数
<例1>2007年4月1日に取得価額2,000の備品を取得した。耐用年数は8年。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | |
期首簿価 | 2,000 | 1,750 | 1,500 | 1,250 | 1,000 | 750 | 500 | 250 |
減価償却費 | 250 | 250 | 250 | 250 | 250 | 250 | 250 | 249 |
期末簿価 | 1,750 | 1,500 | 1,250 | 1,000 | 750 | 500 | 250 | 1 |
※1 1年目から7年目 1 ÷ 8年=0.125(定額法償却率) 2,000 × 0.125=250(各年度の減価償却費)or 2,000 ÷ 8年=250(各年度の減価償却費)
※2 8年目(耐用年数が到来した事業年度) 250 ー1(残存簿価)=249
新定率法
- 定率法償却率と減価償却費の計算
新定率法では、定額法償却率(1 ÷ 耐用年数)に所定倍数を乗じた率を定率法償却率として減価償却費の計算を行います。なお、所定倍数は、2007年4月以降は2.5倍(250%)とされているが、2012年4月以降に取得し使用する資産については2.0倍(200%)とされています。
定率法償却率=1 ÷ 耐用年数 × 所定倍数(2.5or2.0)=定額法償却率 × 所定倍数(2.5or2.0)
調整前償却額=期首帳簿価額 × 定率法償却率
償却保証額=取得価額 × 保証率(調整前償却額 ≧ 償却保証額)の場合
償却限度額=期首帳簿価額 × 定率法償却率(調整前償却額 ≧ 償却保証額)の場合
償却限度額=改定取得価額※ × 改定償却率
※各事業年度の調整前償却額が、最初に償却保証額に満たないこととなる事業年度の期首帳簿価額。
- 改定償却率による減価償却費の計算
250%定率法を採用した場合、「1/耐用年数 × 2.5」の償却率で計算していくと、耐用年数経過時の帳簿価額を備忘価額まで引き下げることができません。そこで早期償却を促す観点から、定率法で計算した償却額が償却保証額を下回る時点から、改定償却率に切り替えて償却することになります。また、耐用年数経過時に残存簿価が1円になるまで償却します。
<例2>2007年4月1日に取得価額2,000の備品を取得した。耐用年数は8年。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | |
期首簿価 | 2,000 | 1,374 | 944 | 649 | 446 | 307 | 205 | 103 |
調整前償却額 | 626 | 430 | 295 | 203 | 139 | 96 | ー | ー |
償却保証額 | 102 | 102 | 102 | 102 | 102 | 102 | ー | ー |
減価償却費 | 626 | 430 | 295 | 203 | 139 | 102 | 102 | 102 |
期末簿価 | 1,374 | 944 | 649 | 446 | 307 | 205 | 103 | 1 |
※1 1年目〜5年目(調整前償却額 ≧ 償却保証額) 1 ÷ 8年目 × 2.5 ≒ 0.313(定率法償却率) 各年度の期首簿価 × 0.313=各年度の減価償却費
※2 6年目(調整前償却額 ≧ 償却保証額) 307 × 0.313=96(調整前償却額) 2.000 × 0.05111(保証率)≒ 102(償却保証額) ∴償却限度額=改定取得価額307 × 改定償却率0.334 ≒ 102 →この金額が6年目〜8年目の減価償却費
参考1 その他の費用配分方法
①減耗償却
鉱山業における埋蔵資産あるいは林業における山林のように、採取されるにつれて漸次減耗し枯渇する天然資源を表す資産である減耗性資産に適用される費用配分の方法です。
減耗償却は減価償却費とは異なる別個の費用配分の方法であるが、手続的には生産高比例法と同じ方法で減耗償却を計算します。
②取替法
同種の物品が多数集まって1つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような資産、つまり取替資産(鉄道のレール、枕木、工具器具など)に適用される費用配分方法です。
取替法とは、最初の取得原価を固定資産の帳簿価額として処理し、それ以後はその減価を無視して償却を行わず、取得原価をそのまま帳簿価額としておき、実際に破損その他の理由で取替えを行ったときに、新資産を取得するために支出した額をその期の費用として処理する方法です。したがって、取替法は減価償却と異なり、部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法です。
参考2 固定資産に関する追加支出
会計上、固定資産に関する追加支出は資本的支出と収益的支出に分けられます。前者の支出額は当該固定資産の簿価に加えられ、その後耐用期間を通じて減価償却によって費用化されます。また、後者の支出額は修繕費として固定資産の機能を維持・管理するためのものであり、支出時にすべて費用として処理されます。
資本的支出:耐用年数の延長や資産価値の増加(改良に該当)⇨ 有形固定資産の簿価に加算
収益的支出:現状維持のための定期的な補修や修理(修繕に該当)⇨ 支出年度に費用処理
参考3 有形固定資産の売却
有形固定資産(償却性資産)を売却する場合、売却時点の売却代金と帳簿価額の差額として売却損益が計算されます。ここで、帳簿価額については、過年度の減価償却を考慮することになるため注意が必要です。以下では、この論点に関する売却損益と取得原価の推定について計算例をみておきます。
①下記の機械装置に関する資料に基づいて計算される売却損益はいくらか。
- 取得日:X1年4月1日(期首)
- 取得原価:500,000円、残存価額:取得原価の10%、耐用年数:10年、減価償却方法:定額法
- 売却日:X3年3月31日(減価償却後)に400,000で売却。
この種の問題では、売却代金は与えられることから、売却時点の資産額(帳簿価額)を求める必要があります。減価償却に注意して計算します。
減価償却費=取得価額ー残存価額/耐用年数=500,000円ー500,000円 × 10%/10年=45,000
売却時点の資産額(帳簿価額)の計算
取得原価ー減価償却累計額(過去2年分)=売却時点の資産額(帳簿価額)
500,000円ー(45,000円 + 45,000円)=410,000円
売却損益の計算
売却代金ー資産額=売却損益(プラスなら売却益、マイナスなら売却損)
400,000円ー410,000円=−10,000円(売却損)
②下記の機械装置に関する資料に基づいて計算される取得原価はいくらか。
- 取得日:X1年4月1日(期首)
- 取得原価:?円、残存価額:取得原価の10%、耐用年数:10年、減価償却方法:定額法
- 売却日:X3年3月31日(減価償却後)に600,000円で売却し売却益が26,000円であった。
まず、売却代金と売却益から、売却時点の資産額(帳簿価額)を求める。
売却代金ー資産額=売却損益(プラスなら売却益、マイナスなら売却損)
600,000円ー資産額=+26,000円 資産額=574,000円
次に減価償却費と資産額の関係から取得原価Xを求める。取得原価をXをとして、方程式を解く。
減価償却費=取得価額ー残存価額/耐用年数=XーX ×10/10年=0.09X
取得原価Xー減価償却費0.09Xー減価償却費0.09X=資産額574,000円
0.82X=574,000円
X=700,000円
参考4 減価償却に関する見積もりの変更
減価償却に関する耐用年数や残存価額について、当初の見積もりが変更される場合、変更に伴う影響を①変更された期間のみで修正する方法(キャッチ・アップ方式)と②変更された期間以降の将来にわたり修正する方法(プロスペクティブ方式)の2つが考えられます。なお、現行制度上は、②のプロスペクティブ方式のみが認められています。以下では、2つの方式の計算例をみておきます。
1年目の期首に取得した取得原価1,000,000円、耐用年数10年、残存価額10%の機械装置について、定額法により減価償却を行なっています。4年目の期首に耐用年数は残り5年、残存価額はゼロと見積もりを変更した。4年目の減価償却はいくらになるか。
当初の見積もりによる減価償却費
減価償却費=(1,000,000円ー1,000,000円 ×10%)/10年=90,000円
以上の計算より、3年目までの減価償却費は合計270,000円(=90,000円×3年分)、4年目期首の帳簿価額(未償却残高)は730,000円(=1,000,000円ー270,000円)です。
①キャッチ・アップ方式(過去に遡って修正)
1年目に見積もりの変更を反映させ、耐用年数8年、残存価額ゼロとすると以下のように減価償却費が計算されます。
減価償却費=(1,000,000円ー0円)8年=125,000円
以上の計算より、3年目までの減価償却費は合計375,000円(=125,000円 × 3年分)、4年目期首の帳簿価額(未償却残高)は625,000円(=1,000,000円ー375,000円)です。
よって、4年目の減価償却費とともに、見積もりの変更により過年度に不足した105,000円(=375,000円ー270,000円)を計上することになります。
4年目の減価償却費:125,000円
過年度に不足した減価償却費(臨時償却費):105,000円
②プロスペクティブ方式(当期以降で修正、現行制度)
3年目期末の帳簿価額(未償却残高)730,000円、残存耐用年数5年、残存価額ゼロをベースに、見積もりの変更を反映させると以下のように減価償却費が計算されます。
減価償却費=(730,000円ー0円)/5年=146,000円
よって、過去の修正は行わず、4年目以降について修正を行います。
4年目の減価償却費:146,000円
<減価償却費の比較>
(単位:円)
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 | 合計 | |
当初見積もり | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 |
キャッチ・アップ方式 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 125,000 105,000 | 125,000 | 125,000 | 125,000 | 124,999 | ー | ー | 894,999 105,000 |
プロスペクティブ方式 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 146,000 | 146,000 | 146,000 | 146,000 | 145,999 | ー | ー | 999,999 |
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