財務諸表を読み説く上で基本になる表示のルールについて説明します。ここを押さえておくと、財務諸表を見る時の理解がグッと深まると思います。
企業会計原則
「企業会計原則」における一般原則
「企業会計原則」の一般原則には7つあります。
- 真実性の原則
- 正規の簿記の原則
- 資本・利益の区別の原則
- 明瞭生の原則
- 継続性の原則
- 保守主義の原則
- 単一性の原則
継続性の原則
①内容
継続性の原則は、1つの会計事実について、2つ以上の会計処理の原則または手続きの選択適用が認められている場合、企業がいったん採用した会計処理の原則または手続きを、毎期継続して適用することを要請する原則です。
②必要性
- 利益操作の排除
- 財務諸表の期間比較性の確保
③継続性の原則が問題とされる場合
1つの会計事実ついて、2つ以上の会計処理の原則または手続きの選択適用が認められている場合には、継続性の原則が問題となります。
1つの会計処理の原則または手続きしか存在しない場合には、継続性の問題は生じません。なぜなら1つの会計処理の原則または手続きしか採用することができず、他の会計処理の原則または手続きに変更することができないからです。
保守主義の原則
①内容
保守主義の原則は、将来ある事象が企業の財政に不利な影響を及ぼすと予測される場合、会計原則の他の規定に反しない限り、慎重な判断に基づく会計処理を行うことを要請する原則です。
②必要性
財務的な健全性を確保し、将来のリスクに備えるために要請される原則です。ただし、過度な保守主義は、真実は報告を歪めるものとして認められません。
③適用例
- 割賦基準による収益の認識
- 各種引当金の設定など
貸借対照表
構造
貸借対照表とは、株主・債権者その他の利害関係者に企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日(決算日)におけるすべての資産・負債及び純資産を一覧表示したものです。
資産及び負債の配列方法
流動性配列法
資産・負債について流動項目・固定項目の順番に配列する方法(財務流動性の程度をみるのに有用)。企業会計原則における原則的な方法です。
固定性配列法
資産・負債について固定項目・流動項目の順番に配列する方法(財務安全性の程度をみるのに有用)。
資産及び負債の流動・固定の分類基準
正常営業循環基準
期間の長短にかかわらず、企業の正常な営業循環過程にあるものを流動項目とする基準です。
売上債権
主目的たる営業取引により発生した債権のうち、破産債権・更生債権は、正常な営業循環過程から外れるので一年基準が適用されます。
棚卸資産
棚卸資産のうち、恒常在庫品として保有するものまたは余剰品として長期間にわたって所有するものも流動資産です。
一年基準(ワン・イヤー・ルール)
貸借対照表日の翌日から起算して、一年以内に、入金または支払の期限が到来するものを流動項目とし、一年を超えて到来するものを固定項目とする基準です。
現行制度の分類基準の原則
まず正常営業循環基準を適用し、正常な営業循環過程内にあるものを流動項目とし、それ以外のものには、一年基準を適用とします。
その他
- 有価証券→保有目的基準
- 未収収益、前受収益、未払費用→すべて流動項目、ただし、前払費用は一年基準
- 固定資産→残存耐用年数が1年以下となったものも固定資産
損益計算書
構造
損益計算書とは、株主・債権者その他の利害関係者に企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間におけるすべての収益及び費用を一覧表示したものです。
なお、損益計算書については、以下の点に注意が必要です。
- 取引の対応関係や同質性に着目して収益・費用を対応させた区分表示と段階別利益が表示される。
- 売上高については、総売上高から売上値引・戻りや割戻しを控除した純売上高が表示される。
- 特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なものまたは毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。
製造原価明細書
自社で財の製造加工を行う企業では、材料費、労務費、経費といった製造原価の内訳明細書である製造原価明細書を開示しなければなりません。製造原価明細書は、損益計算書の売上原価の注記として開示されます。材料費のほか製造加工のためにかかった人件費や減価償却費は、労務費や経費として製造原価を構成するため、損益計算書の販売費及び一般管理費とは区別されます。
なお、連結財務諸表において、セグメント情報を注記により開示している場合には、製造原価明細書の開示は不要となっています。
その他の計算書類
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部の一会計期間の変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成するものです。
そのため、当期変動額について、株主資本の各項目は変動事由ごとにその金額を総額で表示し、株主資本以外の各項目は純額で表示することとされています。
ただし、株主資本以外の各項目についても主な変動事由ごとにその金額を総額で表示することができます。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書とは、一会計期間における企業のキャッシュ・フローの状況を一定の活動区分別に表示した一覧表です。
直接法
直接法は現金収入や現金支出を直接計算する方法です。
間接法
間接法は損益計算書の値を調整する形で営業キャッシュフローを導き出す方法です。
投資活動によるキャッシュ・フローならびに財務活動によるキャッシュ・フローは直接法と同じです。
注記事項
注記とは、財務諸表本体の記載内容に関する重要事項を、財務諸表本体と別の箇所に言葉などを用いて記載したものです。主な注記事項は、以下のとおりです。
企業継続の前提に関する注記
現行の会計基準は、継続企業の前提のもとに制定され、すべての企業に等しく適用されています。ただし、貸借対照表日において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在する場合であって、当該事象または状況を解消し、あるいは改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、そのような事象や状況が存在する旨とその内容など一定の事項を注記しなければなりません。
重要な会計方針
- 有価証券の評価基準及び評価方法
- 棚卸資産の評価基準及び評価方法
- 固定資産の減価償却方法
- 繰延資産の処理方法
- 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
- 引当金の計上基準
- 収益及び費用の計上基準
- ヘッジ会計の方法
- キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲
- その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項
重要な会計方針の変更に関する注記
会計処理の原則または手続を変更した場合の注記は次のとおりです。
- 変更の対象となった会計方針の種類
- 変更前の会計方針
- 変更後の会計方針
- 変更の理由
- 当該変更が計算書類に与えいる影響の内容
重要な後発事象
注記の対象となる重要な後発事象とは、貸借対照表日後に生じた当期の財務諸表の修正は伴わないが、時期以後の財政状態・経営成績に重要な影響を及ぼす事象をいいます。
- 火災、出水等による重大な損害の発生
- 多額の増資または減資及び多額の社債の発行または繰上償還
- 会社の合併、重要な営業譲渡または譲受
- 重要な係争事件の発生または解決
- 主要な取引先の倒産
- 株式併合及び株式分割
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