「余剰金の配当」「株予約権」「包括利益」って何?純資産項目を説明!

基本編

剰余金の配当

剰余金の配当

株主への配当については、利益である繰越利益剰余金から行われるのが一般的であるが、その他資本剰余金からも配当を行うことが許容されています。

剰余金の分配に係る回数制限の撤廃(会社法453条、454条 1項)

従来、資本金及び資本準備金の減少に伴う払い戻しや自己株式の取得は、いつでも行うことができるが、利益配当については年1回(中間配当を含めて年2回)しか行うことができませんでした。しかし会社法では、回数の制限を設けることはなく、年何回でも行うことができるようになりました。

剰余金の分配可能額(会社法461条 1項、2項)

会社法では、分配できる剰余金の額(剰余金の分配可能額)を算定し、その範囲内で分配します。ただし、純資産の金額が300万円を下回る場合には、株主に対して剰余金の配当行うことができません(会社法458条)。剰余金の分配可能額の算定方法は、次のようになります。

決算日における剰余金の額

決算日における剰余金の額は、次のように求めます。

資産の額
+ 自己株式の帳簿価額
ー 負債の額
ー 資本金、準備金の額
ー 法務省令で定める各勘定科目に計上した額の
合計額(評価・換算差額等と新株予約権)

上記の算定方法は、結果的に、剰余金の額は、資本剰余金と利益剰余金のうち、資本準備金と利益準備金を控除した金額となります。つまり、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額です。

分配時の剰余金の額

分配時の剰余金の額は、決算日の剰余金の額を基礎として、これに期中における剰余金の変動(自己株式の処分差損、自己株式消却額、資本金・準備金の減少額等)を加減して求めます。

なお、株主へ配当する場合には、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じた金額を、資本準備金または利益準備金として積み立てることを要求しています。(会社法445条 4項)

剰余金の分配可能額

剰余金の分配可能額は、分配時の剰余金の額を基礎として、自己株式の帳簿価額、自己株式の処分価額、評価・換算差額等を加減して求めます。

役員賞与の取り扱い(会社法361条)

これまでの役員賞与の取り扱いは、利益処分により未処分利益の減少として会計処理を行うことが一般的でした。会社法では、役員賞与は役員報酬とともに職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益として整理されたため、従来の利益処分は廃止されました。そのため、財団法人財務会計基準機構の企業会計基準委員会より「役員賞与に係る会計基準」が公表され、原則として発生時の費用として会計処理されることになりました。

評価・換算差額等

評価・換算差額等

評価・換算差額等については、①その他有価証券評価差額金、②繰延ヘッジ損益及び③土地再評価差額金の3項目に大別することができます。なお、連結財務諸表の場合には、④為替換算調整勘定、⑤退職給付に係る調整累計額が含まれるため、全部で5項目となります。

なお、「評価・換算差額等」は、連結財務諸表では、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」の適用により、包括利益が算定・表示されるため「その他の包括利益累計額」となります。

個別財務諸表の場合
評価・換算差額等
連結財務諸表の場合
その他の包括利益累計額
①その他有価証券評価差額金①その他有価証券評価差額金
②繰延ヘッジ損益②繰延ヘッジ損益
③土地再評価差額金③土地再評価差額金
④為替換算調整勘定
⑤退職給付に係る調整累計額

土地再評価差額金

土地再評価差額金とは、金融の円滑に資することを目的として制定された「土地の再評価に関する法律」に基づき、事業用土地について時価評価を行うことにより計上されたものです。具体的には、再評価を行った事業用土地の再評価額から当該事業用土地の再評価直前の帳簿価額を控除した金額に、税効果会計を適用して算定した差額を、貸借対照表の純資産の部に土地再評価差額金として計上しなければなりません。なお、この法律は、1998年3月31日から2002年3月31日までの決算日に1回だけ実施することを条件として認められた時限立法です。

新株予約権

新株予約権

新株予約権とは、一定期間内(行使請求期間)に一定の価格(行使価格)で新株の交付を受ける権利、または自己株式の移転を受ける権利をいいます。

新株予約権の会計処理(発行者側)

発行者側の新株予約権の取扱いは、次のとおりです。

新株予約権の発行時

新株予約権を発行した場合には、その発行に伴う払込金額をもって純資産の部に「新株予約権」として計上します。

新株予約権の権利行使(新株を発行するケース)

新株予約権の権利を行使された場合、新株を発行するケースでは、現金による払込みによって新株が発行されるため、会社の資産及び資本金が増加します。新株予約権の発行に伴う払込金額と行使に伴う払込金額の合計額が新株の払込金額となり、この合計額を資本金に振り替えます。ただし、新株の払込金額のうち資本金に組み入れない額を取締役会で決議している場合には、その払込金額を資本金及び資本準備金に振り替えます。

新株予約権の権利行使(自己株式の移転するケース)

新株予約権の権利を行使された場合、自己株式を移転するケースでは、現金による払込みによって会社の資産は増加するが、自己株式は減少します。新株予約権の払込価額と行使に伴う払込金額の合計額は、自己株式の処分価額と考えられるため、その合計額と自己株式の帳簿価額との差額を自己株式処分差益(または自己株式処分差損)として処理することになります。

新株予約権の失効

新株予約権の権利が行使されずに行使請求期間が満了した場合には、新株予約権の発行に伴う払込金額を新株予約権戻入益などの科目で特別利益に振り替えなければなりません。

包括利益

包括利益とその他の包括利益

意義

包括利益

包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者(当該企業の株主や新株予約権の所有者など)との直接的な取引によらない部分をいいます。

その他の包括利益

その他の包括利益とは、包括利益のうち当期純利益に含まれない部分をいいます。

包括利益の計算

包括利益の計算は次のとおりです。

<連結財務諸表>

包括利益=当期純利益+その他の包括利益の内訳項目

その他の包括利益に含まれる主な項目は、「その他有価証券評価差額金」「繰延ヘッジ損益」「為替換算調整勘定」「退職給付に係る調整累計額」等であり、これらの項目の期中変化額はすべて、「その他の包括利益」の内訳項目となります。

クリーン・サープラス関係

利益とそれを生み出す元手としての資本の組み合わせとして、まず損益計算書の当期純利益と貸借対照表の株主資本の組み合わせが考えられます。資本取引による株主持分の払込みや払出しがなかった場合、この損益計算書で計算される当期純利益と貸借対照表の株主資本の一会計期間における増減額は一致します。この関係は、損益計算書を経由していない項目が株主資本に混入されていない状況として、クリーン・サープラス関係と呼ばれます。

一方で貸借対照表の純資産と損益計算書の当期純利益の組み合わせを考えた場合、評価・換算差額等が損益計算書を経由せず純資産の部に直接計上されるため、純資産の出資者との取引以外の変動額と損益計算書上の当期純利益が一致しない状況が生まれることになります。これを一般にクリーン・サープラス問題と呼んでいます。

包括利益とは、特定期間における純資産の変動額のうち、株主などとの直接的な取引によらない部分をいいます。そこで当期純利益とあわせて包括利益を表示することにより、純資産の出資者との取引以外の変動額と包括利益が一致するクリーン・サープラス関係を明示できるように調整しています。

包括利益の表示

包括利益を表示する計算書は、当期純利益を計算する連結損益計算書と、包括利益を計算する連結包括利益計算書とで表示する「2計算書方式」、または、当期純利益の計算と包括利益の計算を1つの計算書(連結損益及び包括利益計算書)で表示する「1計算書方式」のいずれかの形式によります。

なお、いずれの方式においても、当期純利益の表示が行われるが、包括利益の計算途上で当期純利益を表示するためには、リサイクリング(組替調整)が必要となります。リサイクリングとは、一度「その他の包括利益累計額」に算入された「その他の包括利益」がその後実現した場合に、連結損益及び包括利益計算書または連結損益計算書の当期純利益に計上することをいいます。リサイクリングを行わなくても包括利益の額としては何ら変化することはないが、包括利益の計算途上で当期純利益を表示するためには必要となります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました