決算書の収益と費用はどのように決まっているのか?

基本編

収益・費用の認識と測定

収益の認識

収益の認識とは、収益をどの時点で認識し、どの期間に帰属させるかをいいます。この認識基準には次の3つあります。

発生主義

財やサービスの価値は企業の生産活動を通じて徐々に発生すると考えられるため、それが発生する時点で収益を認識するものです。しかし、生産された製品や仕入れた商品が販売されるかどうかは不確実であり、収益を計上するとしても見積りによる予測額を計上することになり、その計算もきわめて困難です。そこで、現行の制度会計では、次の場合に限り、発生主義に基づく収益の認識を認めています。

  • 工事契約(工事進行基準):生産基準
  • 農産物・貴金属等:収穫基準
  • 継続的役務提供:時間基準
実現主義

収益を実現の事実に基づいて認識するものです。実現の事実とは、次の要件を充たした時点をいい、販売基準とも呼ばれます。つまり販売という行為によって、収益の確実性(キャッシュ・フローの裏付け)と客観性(取引による証拠)が得られるため、実現主義が収益の認識基準の原則とされています。

  1. 第三者への財貨または役務が提供されること
  2. 1の対価として現金または現金等価物を受け取ること
現金主義

企業が第三者に対して提供した財貨または役務の対価を現金で回収した時点で収益を認識する基準であり、現行の制度会計では例外として認めています。

参考 内部取引の相殺
収益の認識に当たっては、その要件1つとして、「第三者への財貨または役務が提供されること」が挙げられます。この第三者とは、企業外部もしくは会計単位の異なる取引相手という意味です。
この要件に照らして問題となるのが、個別会計における本店と支店、連結会計における親会社と子会社の間の取引です。それぞれの組織は、個別に事業活動を行い、収益を認識します。しかし、会計上、それぞれの組織は、企業内部もしくは同一の会計単位としてみなされます。つまり、本店と支店、親会社と子会社の間の売買取引によって生じる収益(売上)等は、内部取引として最終的に公表財務諸表作成のうえでは相殺されることになります。

費用の認識

費用は、発生主義に基づき、企業活動における経済価値の減少の事実、すなわち財貨及び用役の費消があった期に認識されます。

ただし、当期に発生した費用すべてが当期の期間費用として認識されるとは限りません。例えば、「材料」の場合、これを当期に費消すれば「材料費」が発生するが、棚卸資産原価を構成して次期以降に繰り越される場合には、当期の費用として認識されません。

収益・費用の対応

期間利益の算定

収益は原則として実現主義により認識され、費用は発生主義により認識されます。そして、発生費用のうち、当期の実現収益獲得に貢献した部分のみが「費用収益対応の原則」によって選び出された期間費用とされ、両者の差額が期間利益となります。なお、「費用収益対応の原則」とは、一会計期間における企業の経済活動によって獲得された収益とそれを獲得するために費やされた費用を対応させることにより、努力と成果という因果関係に基づいて期間損益を計算することを要請している原則です。

収益・費用の対応の類型
  • 個別的対応…売上高と売上原価のように、商品または製品を媒介とした収益と費用の直接的な対応。
  • 期間的対応…売上高と販売費及び一般管理費などのように、会計期間を媒介とした収益と費用の間接的な対応。

収益と費用の測定基準

収益と費用の「測定」とは、収益と費用の金額を決定することであり、収益と費用の金額決定の基礎を現金収入額及び現金支出額に求めるという「収支額基準」が採用されています。ただし、収益と費用の認識時点と現金収支時点とは切り放されいているため、ここにいう収支額とは、当期の収支額のみならず、過去及び将来を含めた収支額を指すことになります(例えば、減価償却費は過去の支出額に基づいて測定し、引当金は将来の支出額に基づいて測定されます)。

販売形態別の収益認識基準

一般販売

一般販売とは、通常の商品や製品の引渡し及びサービスの提供による販売形態です。具体的な認識基準としては、商品等を引き渡したときに収益を計上する引渡基準や、商品等を発送したときに収益を計上する出荷基準、及び商品等を受け取り確認したときに収益を計上する検収基準があります。

委託販売

委託販売とは、委託者が一定の手数料を支払って、受託者に商品などの販売を委託する販売形態をいいます。委託販売においては、受託者が委託品を販売したときに収益を計上します(販売基準)。ただし、仕切精算書(売上計算書)が販売の都度受託者から送付されている場合には、仕切精算書が到達した日に収益を計上することができます(仕切精算書到達日基準)。

試用販売

試用販売とは、いったん商品を得意先に送付し、得意先に試用させた上で商品を購入するかあるいは返品するかを決定させる販売形態をいいます。試用販売においては、得意先が買取りの意思表示をしたときに収益を計上します(販売基準)。ただし、試用期間が経過しても返品や買取りの意思表示がない場合には、買取りの意思表示があったものとみなして収益を計上することができます。

予約販売

予約販売とは、将来の商品の引渡しまたは役務の給付を約束して、あらかじめ顧客から予約金を受け取って行われる販売形態をいいます。予約販売においては、予約金受取額のうち、決算期末までに商品などを引渡した部分に相当する収益のみを計上します(販売基準)。

割賦販売

割賦販売とは、あらかじめ定められた割賦販売契約に基づき、商品の売上代金を一定期間に分割して受け取る特殊な販売形態であり、商品等を販売したときに収益を計上します(販売基準)。しかし、割賦販売は、通常の販売と異なり代金の回収に長期間を要し、かつ、分割払いであることから、貸倒れの危険性が高く、回収費などの事後費用も多くかかります。そのため、これらに対する引当金の計上については不確実性と煩雑さを伴う場合が多いです。そこで、収益の認識を慎重に行うため、販売基準の代えて、代金回収時(回収基準)または回収期限到来時(回収期限到来基準)に収益を認識する割賦基準によることも認められています。

工事契約

工事契約とは、工事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます。

「工事契約に関する会計基準」では、工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分についての成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用することとしています。なお、成果の確実性が認められるためには、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度について、信頼性をもって見積もることができなければなりません。

工事進行基準工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における
工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び
工事原価を認識する方法。(生産基準の適用例)
工事完成基準工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、
工事収益及び工事原価を認識する方法。(販売基準の適用例)
参考 工事契約特有の会計科目(勘定科目)
工事契約(建設業)における会計処理では、一般的な製造業と比較した場合、特有の会計科目を用いることが多いです。下記が代表的な項目です。
建設業製造業
完成工事高売上高
完成工事原価売上原価
未成工事支出金仕掛品
完成工事未収入金売掛金
工事未払金買掛金
未成工事受入金前受金

継続的役務(サービス)提供

継続的役務提供とは、資金の貸付や不動産の賃貸のように、一定の契約にしたがって、継続的に役務(サービス)を提供する取引をいいます。この取引では、契約により対価が確定していることから、客観性、確実性が満たされると考えられるため、時間の経過により収益を計上することが認められています(時間基準)。

農産物

米や麦などの主要農産物は、収穫が完了した段階で収益を計上することができます(収穫基準)。これは、買取りの保証があり、政府の買入価格も決まっているからです。

貴金属

金や銀などの貴金属は、採取段階で収益を計上することができます(収穫基準)。これは、安定した市場価格が存在するからです。

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