ファンダメンタル分析に必要な「産業分析」にはココを重要!!

基本編

ファンダメンタル分析では、定量分析と定性分析を組み合わせて行うことが必要です。財務諸表からの定量分析は過去の企業活動を分析できますが、将来について予想するには企業が属する業界の国内外の動向や、財務諸表では見えてこない業界内での対象企業の強みや弱みを押さえておく必要があります。ここでは、企業の業績に外部から影響を与える経済指標として景気動向指数を取り上げます。次に経営学的分析手法として、産業のライフサイクル理論、ポーターの競争戦略論などを取り上げ、その後にセグメント情報とセクター・アロケーションについて取り上げます。

景気動向指数

景気動向指数には、景気の判断や予測、景気転換点を判断するためにDI(diffusion index、ディフュージョン・インデックス)やCI(composite index、コンポジット・インデックス)が用いられます。DIは景気に敏感な指標を選び出し、そのうち上昇している指標の割合を表します。

DIで、は景気が上向いているのか下向いているのかという景気変動の方向はわかるが、変動の大きさを直接には示さないという欠点があります。そこで、景気の強弱あるいは量感・スピード感をつかむための指標としてCIがあります。CIは、DIと同じ系列を採用し、その採用系列の変化率を合成して作られてものです。

一般に指数には、景気先行して動く先行指標、ほぼ一致して動く動く一致指数、遅れて動く遅行指数があります。先行指数は一致指数に数か月先行するため景気の動きの予測に、遅行指数は一致指数に数か月から半年程度遅行するので景気の転換点や局面の確認に要されます。景気の局面や転換点を判断する際にはDIと合わせて行うことが望ましいとされています。

先行指数 → 景気の動き予測

遅行指数 → 景気局面や転換点の判断(DIと合わせて行う)

2021年3月より、内閣府の景気動向指数に採用されている系列は以下の通りです。

系列名(30系列)                                  
先行系列1.最終需要財在庫率指数(逆サイクル)
2.鉱工業用生産財在庫率指数(逆サイクル)
3.新規求人数(除学卒)
4.実質機械受注(製造業)
5.新設住宅着工床面積
6.消費者態度指数 ※二人以上世帯・季節調整値
 理由:季節要因による変動を取り除くため
7.日経商品指数(42種総合)
8.マネーストック(M2)(前年同月比)
9.東証株価指数
10.投資環境指数(製造業)
11.中小企業売上げ見通しDI
一致系列1.生産指数(鉱工業) 
2.鉱工業用生産財出荷指数
3.耐久消費財出荷指数
4.労働投入量指数(調査産業計)
 理由:企業の雇用・労働時間調整の動きをより総体的に捉えるため
5.投資財出荷指数(除輸送機械)
6.商業販売額(小売業、前年同月比)
7.商業販売額(卸売業、前年同月比)
8.営業利益(全産業)
9.有効求人倍率(除学卒)
10.輸出数量指数
遅行系列1.第3次産業活動指数(対事業所サービス業)
2.常用雇用指数(調査産業計、前年同月比)
3.実質法人企業設備投資(全産業)
4.家計消費支出(勤労者世帯、名目、前年同月比)
5.法人税収入
6.完全失業率(逆サイクル)
7.きまって支給する給与(製造業、名目)
8.消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、前年同月比)
9.最終需要財在庫指数
 (注)「逆サイクル」は、指数の上昇・下降が景気の動きと反対になる指標であることを指す。

景気動向指数について内閣府のホームページはこちら

産業のライフサイクル理論

産業のライフサイクル理論は、ある企業の属する産業が成長段階にあるのか成熟段階にあるのかを判断するのに有効な方法です。産業のライフサイクルはその発展に合わせて次の4段階に分けられています。勃興期→成長期→成熟期→衰退期

勃興期(ぼっこうき)

新技術や新製品が生み出される段階です。市場規模も志位作、技術、市場、組織、戦略は不確実であり、多くの企業が猛烈な競争を繰り返し、どの企業が勝者となるのかは分からない状態です。

成長期

技術、組織や戦略について合意がなされ、競争の中心は生産・流通になります。市場規模が急拡大して新規参入と撤退が絶え間なく起こります。製品の供給が増え、価格も低下しますが、需要の拡大に応じて企業の収益は増加します。企業は市場規模やシェアの拡大戦略を講じます。

成熟期

市場規模やシェアは安定的に推移します。製品は大量に供給され、特定のブランドが確立されます。

衰退期

需要が低下し、多くの企業が産業から撤退して一部の残った企業が収益を得ます。

ライフサイクルの時間は産業によって異なります。技術革新の絶え間ない産業や顧客嗜好の変化が速い産業はライフサイクルが短くなります。

ポーターの競争戦略論

ボーダーの競争戦略論では、業界の収益性に影響をする5つの競争要因として、①新規参入の脅威、②市場内競争、③代替品と補完品、④買い手の交渉力、⑤売り手の交渉力が上げられています。これらの5つの力に基づいて収益性を分析する方法をファイブ・フォース分析(5F分析)といいます。

新規参入の脅威

新規参入の参入は、主に次のような参入障壁が大きく存在しています。

  • 規模の経済性(一定期間あたりの絶対生産量が増えるほど、製品の単位あたりのコストは下がること)が働くこと
  • 他社に真似できないような製品の差別化ができること
  • 競争するのに巨額の資金を要すること
  • 仕入れ先を変更するときにかかる一時的なコストが大きいこと
  • 流通チャンネルが確保できること
  • 規模とは無関係なコスト面(特許、経験など)での優位性が既存企業にあること
  • 政府の規制があること

市場内競争

既存企業同士の競争は市場シェアの獲得競争になりやすく、次のような場合は競争が激化しやすいです。

  • 競争する企業数が多い、あるいは企業規模が類似していること
  • 産業の成長が遅いこと
  • 固定コストまたは在庫コストが高い
  • 製品差別化がされていない、あるいは買い手を変更するコストが低いこと
  • 生産能力の増強が小規模毎にはできないこと
  • 競争企業間の戦略、企業体質などが多様化していること
  • 戦略がうまくいき、その分野で成功すると大きな成果が得られること
  • 撤退障壁が高いこと

代替品と補完品ある

ある産業内の企業はすべて、代替品を生産する他の産業と広い意味での競争をしています。代替品があると当該企業は高い価格設定が出来なくなり、産業の潜在的利益が抑制されます。一方、補完品というものもあります。ゲームとゲーム機のような関係がそれにあたり、利益の増加をもたらします。

買い手(業界の顧客)の交渉力

買い手の交渉力が強い場合として、次のようなケースがあります。

  • 買い手が集中化したり、売り手の販売数量に大きな割合を占めている
  • 取引先を変えるコストが低い
  • 買い手が部品の内製化など川上統合に乗り出す姿勢を示す

売り手(業界への供給業者)の交渉力

供給業者の交渉力が強い場合として、次のようなケースがあります。

  • 供給業者の属する産業が少数の企業に支配され、買い手の産業よりも集中化が進んでいる
  • その買い手産業が供給業者にとって重要な顧客でない
  • 供給業者の製品が、買い手業者にとってなくてはならない重要な仕入れ品である
  • 供給業者の製品が差別化された製品で、他の製品に変更すると買い手のコスト増になる

そのほかの経営戦略論

ポジション(position)

業界内に占める位置の優位。産業構造、業界の多様性、ネットワークから生じる

ケイパビリティ(capabilities)

その企業の他社よりも優れた能力

バリューネット(value net)

売り手、競合他社、買い手、補完品のサプライヤーが競争よりも協調し、業界を成長させることにより、利益を得ようとする可能性がある。

リソース・ベースト・ビュー(resource based view)

経営資源に着目した企業観で、財務資本、物的資本、人的資本、組織資本に分類する。

ポーターの戦略論では、外部要因を重視するのに対して、リソース・ベースト・ビューでは企業の内部要因を重視する。

バリューチェーン分析(value-chain analysis)

1つ、またはいくつかの活動の組合わせの中で、経営資源の強みや弱みを分析し、競争優位を生み出す経営資源やケイパビリティを特定するもの。

SWOT分析

企業の競争戦略を強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(opportunities)、脅威(Threats)の4種類から分析する。

強みと弱みは企業の内部環境要因であり、経営資源やケイパビリティから生じる。

一方、機会と脅威は外部環境要因であり、機会は企業に競争優位のポジションや優れた業績をもたらすが、逆に脅威は競争優位や業績にネガティブな影響を与える。

VRIO分析

経営資源やケイパビリティが強みであるかを評価するためにバーニー(Barney)が提唱した手法。

Value(経済価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)の4つを評価軸とし、それらを備える経営資源やケイパビリティは競争優位を持つとされる。

セグメント情報

2010年4月より、セグメント情報の開示基準にはマネジメント・アプローチが採用されています。

マネジメント・アプローチでは、企業の事業セグメントに資源を配分し業績を評価する最高経営意思決定機関が、意思決定に使用する情報を基に営業単位別セグメント(operating segment)の情報を開示します。

一方、今までの、事業の種類別、所在地別等のセグメント情報は補完情報と位置付けられました。

事業セグメントの決定

事業セグメントの定義を行います。事業セグメントは企業の構成単位のうち、

a. 収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わる

b. 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討する。

c. 分離された財務情報を入手できる

の要件を全て満たすものである。ただし、現時点において収益を稼得していない新規事業が事業セグメントとなることがある一方、本社部門など企業の一部であっても、収益を稼得しないような構成単位は事業セグメントにはならない。

報告セグメントへの集約

報告セグメントを細分化しすぎるのは好ましくないので、一定の基準でセグメントを集計します。

a. 以下の集約基準を全て満たしている場合には、該当する複数の事業セグメントを集約して報告セグメントとすることができる。

  1. 事業セグメントを集約することが、基本原則(財務諸表利用者が事業活動内容や経営環境を理解、評 価できるように適切な情報を提供する等)と整合的である
  2. 事業セグメントの経営的特徴が概ね類似している
  3. 製品やサービスの内容、製品の製造方法等やサービスの提供方法、製品やサービスを販売する市場や顧客の種類、製品やサービスの販売方法、業種に特有の規制環境の全てが概ね類似する

b. 集約された事業セグメントに含めて、その事業セグメントが量的基準である以下のいずれかを満たしている場合には、そのセグメントを報告セグメントとする。

  1. 売上高が全てのセグメントの売上高の金額の10%以上
  2. 利益または損失の絶対額が、利益の生じている全ての事業セグメントの利益の合計額または損失の生じている全ての事業セグメントの損失の合計額の絶対値の、いずれか大きい方の10%以上

c. 量的基準を満たしていないもので、経済的特徴が概ね類似し、a. 3の事業セグメントを集約するにあたって考慮すべき要素の過半数が概ね類似する場合、それらは結合して報告できます。

d. 報告セグメントの外部顧客への売上高が損益計算書の売上高の75%以上になるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加します。

e. 上の d において売上高の75%に達した場合、残りの事業セグメントは「その他」として開示できます。

セグメント情報の開示項目

開示事項は次の通りです。

a. 報告セグメントの概要

b. 報告セグメントの利益(または損失)、資産、負債及びその他の重要な項目の額とその測定方法に関する事項

c. 上の b にある開示項目の合計額とこれに対応する財務諸表計上額との間の差異調整に関する事項

それに加え、関連情報等として製品およびサービスに関する情報(製品・サービス区分別の売上高の開示)、地域に関する情報(国内・海外別の売上高及び有形固定資産の開示)、主要な顧客に関する情報(顧客の名称及び売上高等の開示)、固定資産の減損損失に関する情報(報告セグメント別)、のれん報告セグメント別)を示すことが求められています。

セクター・アロケーション

(1)セクター間の相対比較の方法

セクター間の相対比較の方法を行うのには、以下の2通りの方法があります。

【トップダウンアプローチ(top-down approach)】

トップダウンアプローチは、経済成長率や、為替、金利、企業業績動向等のマクロ経済動向を予測、分析し、その結果を基に資産配分(アセット・アロケーション asset allocation)、セクター・アロケーション、銘柄選択という順番でポートフォリオを構築していく方法です。

【ボトムアップアプローチ(bottom-up approach)】

ボトムアップアプローチは、個別企業の業績動向を予測、分析し、それを積み上げてポートフォリオを構築していく方法です。なお、グローバルな競争にさらされているセクターでは、国際比較分析を行う必要があります。

(2)セクター・アロケーションの基本

資産運用を行う場合、評価の基準となる市場の収益率が必要で、それをベンチマーク(benchmark)と呼びます。資産運用戦略にはアクティブ運用パッシブ運用の2通りあり、パッシブ運用がベンチマークと同等な収益率の獲得を目標とするのに対して、アクティブ運用はそれを上回る収益率を獲得することを目標にしています。アクティブ運用では、ベンチマークの収益率を上回ると予測するセクターのウェイトを上げ、ベンチマークの収益率を下回ると予測するセクターのウェイトを下げることでベンチマークを上回る収益率の獲得を目指します。

景気底入れ局面
  • 外需主導の景気回復を予測…外需関連セクターの投資ウェイトを高める。
  • 内需主導の景気回復を予測…内需関連セクターの投資ウェイトを高める。
  • 耐久消費財需要の高まりを予測…輸送用機器、住宅、電気機器等のセクターの投資ウェイトを高める。
景気拡大局面

素材セクター、耐久消費財などの景気敏感セクター、市場ポートフォリオとの連動性の高い(高ベータ)セクター、財務レバレッジ(有利子負債比率)の高いセクターのウェイトを高める。

景気後退局面

景気変動の影響を受けにくいディフェンシブセクター(食品、薬品、家庭用品などの非耐久消費財)、市場ポートフォリオとの連動性の低い(低ベータ)セクターの投資ウェイトを高める。

景気対策がとられる場合

財政政策や金融政策がとられるならば、その政策に関連するセクターへの影響を分析します。

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